一言で言うと
マルチタイムフレーム分析(MTF分析)は、複数の時間足を組み合わせて相場を見る考え方です。 上位足(長い時間足)で大きな流れや環境を確かめ、下位足(短い時間足)で細部を見る、という順番が基本とされます。 組み合わせる時間足に決まりはなく、上位足と下位足の見方が食い違ったときの扱いを先に決めておくことが大切です。
1 時間足では下げに見えたのに、日足を開いたら上昇トレンドの途中だった、という経験はないでしょうか。 この記事では、考え方、時間足の組み合わせの例、食い違うときの考え方、弱点を順に整理します。 最後に、自分のルールを書き出して過去チャートで検証するときの注意も紹介します。
マルチタイムフレーム分析とは
2 つの意味がある
「マルチタイムフレーム」という言葉は、大きく 2 つの意味で使われます。
- 分析の考え方:複数の時間足のチャートを、長い足から短い足へ順に見る
- チャートツールの機能:上位足で計算したインジケーターを、下位足のチャートに重ねて表示する
ツールの機能としては、たとえば 1 時間足のチャートに日足の移動平均線を表示できます。 FX 向けの解説では、日足チャートに 20 週の移動平均線を重ねる例も紹介されています。 この記事では主に、1 つ目の「分析の考え方」を扱います。
上位足で環境、下位足で細部
1 つの時間足だけでは視野が狭くなるので、大きな視野と小さな視野を組み合わせる、と説明されます。 役割分担の例としては、次のような整理がよく紹介されています。
| 役割 | 見る足の例 | 見るもの |
|---|---|---|
| 長い足 | 週足・日足 | 大きなトレンドの向き |
| 中間の足 | 4 時間足・1 時間足 | 日々の値動き、押し・戻りの形 |
| 短い足 | 1 時間未満 | 短期の細かい動き |
ただし、どの足を長期・中期・短期とするかに明確な定義はない、と断っている解説もあります。 表の足はあくまで例です。
なぜ上位足を見るのか
上位足を確かめる理由として、複数の解説で共通しているのは次の 2 点です。
- 一時的な押し・戻りを転換と取り違えないため:下位足だけを見ていると、上位足のトレンドの中の一時的な動きを、トレンドの転換と見誤ることがある
- 上位足で意識されている価格帯を知るため:上位足のサポート・レジスタンス(反発しやすい価格帯)を把握しておく
上位足の移動平均線は、サポート・レジスタンスとして機能しやすい傾向がある、という言い方もあります。 これは傾向としての説明で、そこで必ず反発するという意味ではありません。 移動平均線の向きや並びの読み方は、移動平均線の使い方で解説しています。
下位足では、押し・戻りの形や、上位足で見た流れに沿った動きが出ているかなど、細部を確かめます。 押し目・戻りの考え方は、トレンドフォローの記事で整理しています。
時間足の組み合わせの例
Elder のトリプルスクリーン
複数の時間足を組み合わせる方法として知られるのが、トリプルスクリーンです。 Alexander Elder が 1993 年の著書『Trading for a Living』で紹介した方法です。 3 つの時間足を「画面(スクリーン)」に見立て、長い足から順に確かめていきます。
二次資料の解説では、3 つの画面の役割は次のように説明されています。
- 第 1 画面(長い足):大きなトレンドの向きを確かめる
- 第 2 画面(中間の足):トレンドと逆向きの押し・戻りを見る。RSI などのオシレーターを使う例がある
- 第 3 画面(短い足):さらに細かい値動きを確かめる
StockCharts の Elder の手法の解説では、日足のサインは週足のトレンドと一致するときだけ有効とする、と説明されています。 上位足の向きを、下位足の判断の「条件」として使う考え方です。 RSI の読み方は、RSI の記事で解説しています。
時間足の倍率の目安
StockCharts の解説では、取引する足のおよそ 5 倍の足を長い足にする考え方が紹介されています(日足なら週足)。 資料によって 3〜6 倍程度の幅があります。 同じ解説でも、ほかの時間足の組み合わせでは判断が必要としており、決まった数字ではありません。
出典ごとの組み合わせの例
次の表は、出典に載っていた組み合わせの「例」です。 最適な組み合わせや推奨値を示すものではありません。 倍率は、出典に記載がないものは、日足を 24 時間、週足を日足 5 本として計算した値です。
| 出典(例) | 長い足 | 中間の足 | 短い足 | 隣り合う足の倍率 |
|---|---|---|---|---|
| StockCharts(Elder の手法の解説) | 週足 | 日足 | — | 5 倍(出典の記載) |
| Forexop(中期の例) | 日足 | 4 時間足 | 1 時間足 | 6 倍・4 倍(計算) |
| OANDA 証券(解説中の例) | 日足 | 1 時間足 | 5 分足 | 24 倍・12 倍(計算) |
| CMC Markets(デイトレードの例) | 1 時間足 | 15 分足 | — | 4 倍(計算) |
隣り合う足の倍率は 4〜6 倍程度の例が多い一方、日足と 1 時間足のように大きく離れた例も紹介されています。 出典自身も「明確な定義はない」と書いたり、判断が必要としたりしており、組み合わせは自分で決めて検証するものと考えられます。
上位足と下位足の見方が食い違うとき
マルチタイムフレーム分析で迷いやすいのが、時間足どうしの見方が食い違う場面です。 典型例としてよく説明されるのは、上位足は上昇トレンドなのに、下位足では下げている状態です。 このとき下位足の下げは、上位足から見ると押し目にあたると解釈されることがあります。
日足ではトレンドが続いていても、4 時間足や 1 時間足では保ち合いになっている、という例は三角保ち合いの記事で紹介しています。
食い違うときの考え方として、出典では次のようなものが紹介されています。
- 上位足を優先する:長い時間足ほど大きな方向を示すとされ、一般的には上位足のトレンドを重視する、という考え方
- そろうまで待つ・見送る:上位足と下位足の向きがそろうまで待ち、そろわなければ取引しない、という考え方
- 食い違い自体を情報として読む:長い足と中間の足の向きがそろえばトレンドの継続、食い違えば転換の可能性と読む考え方。トレンドの転換は下位足から上位足へ波及する、と説明されることがある
- 上位足に逆らうなら条件を足す:長い足と逆の方向を考えるのは、中間の足が逆向きのトレンドになっている場面が望ましいと考えられる、という考え方
- すべての足がそろう場面を区別する:長い足から短い足までトレンドがそろう相場は値幅が出やすい傾向がある、と考えることができる、という説明
ただし、どの考え方が正しいかを検証したデータは見つかりませんでした。 大切なのは、どれを採るかを事前にルールとして書いておくことです。 食い違ってから考えると、その場の値動きに合わせて都合のよい足を選びやすくなります。
見る足を増やしすぎない
時間足を増やせば、それだけ多くの情報が手に入るように思えます。 しかし、見る足を増やしすぎると判断に迷いやすいとする解説があります。
- シナリオが揺らぐ:決めた時間足以外を取引中に見ると、最初の判断がぶれるおそれがある、という注意がある
- 手間が増える:複数の足を確かめるので、分析に時間がかかる
- 条件が増えすぎる:時間足を組み合わせると複雑さが増し、過剰最適化(過去のデータに合わせすぎること)につながりうる、という指摘がある
また、出典の説明ではなくこの記事での整理ですが、足を増やすほど「どこかの足は逆を向いている」状態が起きやすくなると考えられます。 そうなると、自分の見たい方向を示す足だけを選んで判断しやすくなるとも考えられます。
どの足で何を見るかを先に決め、取引中はそれ以外の足を見ない、という決め方も紹介されています。
合わない場面と弱点
上位足の方向がはっきりしない
上位足がレンジやもみ合いの場合、上位足から方向を判断できません。 トリプルスクリーンの解説でも、トレンド相場に最も合う方法とされています。 上位足がレンジのときの考え方は、レンジ相場の逆張りの記事で扱います。
時間足の決め方に主観が入る
長期・中期・短期の区分にも、時間足の倍率にも、決まった基準はありません。 基準があいまいなので、組み合わせを選ぶときに主観が入りやすくなります。 厳密な基準がないことには良い面も悪い面もある、と書いている解説もあります。
機会が減る
上位足と下位足がそろうのを待つ、上位足の価格帯を理由に見送る、といった条件を足すほど、取引の機会は減ります。 仕組みから言えることとして、条件がそろうまで待つと、その間の値動きは見送ることになります。 条件を足すと取引回数が減る、という構造は検証のときにも影響します(後の「件数を集める」を参照)。
上位足は確定するまで値が動く
上位足の足は、確定するまで終値やインジケーターの値が動き続けます。 たとえば日足の途中では、その日の終値はまだ決まっていません。 下位足のチャートに上位足のインジケーターを重ねると、確定前の値が書き換わり続けることがあります(リペイントと呼ばれます)。
また、日足チャートに週の移動平均線を表示すると、1 週間同じ値が続き、線が階段状に見えます。 週の終値で計算されるためで、確定した週足の値と、途中の値を区別して見る必要があります。
確定した週の値が分かるのは、その週の最後の日足が確定した後で、週の途中では未確定の週と同じように値が動いていました。 過去チャートで検証するときは、前の週までの確定値で判定します。
短い足のノイズ
短い足ほど条件が速く変わり、だましのサインが出うる、とする解説もあります。 1 分足や 5 分足は、多くの人にとって混乱のもとになりうる、という説明もあります。 下位足のサインを、上位足を確かめずにそのまま受け取らないことが大切です。
資金管理とセットで考える
時間足の組み合わせを変えると、損切りの位置も変わります。 どの足の高値・安値を基準にするかで、損切り幅が変わるからです。 損切り幅が変われば、同じリスク額でも取引できる数量が変わります。
トリプルスクリーンの解説でも、損失の額や数量は各自のリスク上限に合わせるとしており、具体的な数値は決めていません。 Elder 本人の取引解説にも、1 回の取引のリスクを先に金額で決めている例があります(株式の例)。 先にリスク額を決め、損切り幅から数量を出す、という順番で考えると整理しやすくなります。
損切り幅と口座資金から数量を出すには、ロット計算ツールが使えます。 数量の決め方はポジションサイジングの記事、損失と利益の幅の関係はリスクリワード比の記事で解説しています。
自分で検証する
マルチタイムフレーム分析は、時間足の組み合わせも、食い違うときの扱いも人によって違います。 自分のルールを書き出し、過去のチャートで記録して確かめるのが、この記事のゴールです。 検証ノートを使うと、記録から勝率や実績の損益比を集計できます。
1. ルールを先に書き出す
検証を始める前に、次の項目を文章で決めておきます。
- 使う時間足と役割:例)日足で向き、1 時間足で押し・戻りの形を見る
- 上位足の判定方法:例)移動平均線の向き、高値・安値の切り上げ
- 食い違ったときの扱い:例)上位足を優先する、そろわなければ見送る
- 損切りの基準:例)どの足の、どの高値・安値を使うか
- 手仕舞いの条件:例)上位足の判定が崩れたとき
途中でルールを変えたくなったら、別のルールとして記録を分けます。
2. 過去チャートで 1 回ずつ記録する
チャートを右へ 1 本ずつ進めながら、ルールに合った場面を探して記録します。 検証ノートには、損切り幅と結果(pips)を入れ、メモ欄に時間足の組み合わせを書いておくと後で比べやすくなります。 結果には、スプレッドなどのコストを差し引いた値を入れます。
3. 後知恵に注意する(まだ確定していない上位足を使わない)
過去のチャートは、その後の値動きが見えている状態で判断しがちです。 マルチタイムフレーム分析では、これに加えて「まだ確定していない上位足」に注意が必要です。 たとえば 1 時間足の昼の場面を検証するとき、その日の日足の終値を判断に使うと、当時は知りえなかった情報を使うことになります。
TradingView のヘルプでは、上位足のインジケーターを下位足に表示するとき、「時間足の確定を待つ」をオンにすると、上位足が確定したときだけ値が反映されると説明されています。 オフの場合は、リアルタイムの足で値が書き換わります。 TradingView の Pine Script の公式ドキュメントも、上位足のデータは過去とリアルタイムで結果が違うことがある、と説明しています。
検証では、その時点で確定していた上位足(前日の日足、前週の週足など)だけで判定する、と決めておきます。 ツールで上位足のインジケーターを重ねる場合は、確定を待つ設定になっているかを確かめます。
4. 件数を集める
記録の件数が少ないと、勝率や期待値は偶然で大きくぶれます。 上位足の条件を足すほど、ルールに合う場面は減ります。 条件を増やしすぎていないかを見直しながら、件数を集めてから集計を見るようにします。
この記事では、マルチタイムフレーム分析の成績(勝率など)の数値は載せていません。 FX で前提を明記して検証した数値が、今回の調査では見つからなかったためです。 集計はあくまで記録した内容のまとめで、将来の成績を示すものではありません。
関連ツール・関連記事
- 検証ノート:過去チャートで検証した取引を記録し、勝率・実績のRR・期待値などを集計できます
- ロット計算ツール:口座資金・許容損失(%)・損切り幅から、取引数量とロット数を計算できます
- トレンドフォロー:上位足で確かめたトレンドに沿う考え方と、押し目・戻りの見方
- レンジ相場の逆張り:上位足がレンジのときの考え方
- ブレイクアウト:高値・安値のブレイクを条件にする考え方
- 移動平均線の使い方:上位足の向きを確かめるときによく使われる指標の解説
- RSI:中間の足で押し・戻りを見るときに使われる例があるオシレーターの解説
- リスクリワード比:損益分岐となる勝率の考え方
- ポジションサイジング:損切り幅から取引数量を決める考え方
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